ブックパス

キーワード

セーフサーチ

成人向けコンテンツの制限

並べ替え

価格

円 〜

条件追加

カテゴリー

ビジネス

趣味・実用

小説

雑誌

コミック

女性コミック

男性コミック

ラノベ

わたしを離さないで Never Let Me Go

ブックコイン・WALLETポイント

0(今月中に0コイン失効 0

作品情報

あらすじ

優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設へールシャムの親友トミーやルースも「提供者」だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度……。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく。解説:柴田元幸

作品詳細情報

タイトル:
わたしを離さないで Never Let Me Go
ジャンル:
小説海外小説一般
著者:
カズオ・イシグロ土屋政雄
出版社:
早川書房
掲載誌:
ファイルサイズ:
0.4MB
配信方式:
ストリーミング、ダウンロード

作品レビュー

[ 2017-11-19 ]

遅まきながらノーベル文学賞受賞おめでとうございます!
日本人3人目ということで、これまで読む機会がありませんでしたが、カズオ・イシグロの本を読む良い機会になりました!

独特の世界観の下、物語の詳細な背景や理由はついぞ明らかにされないものの、現実には哀しく辛いテーマであり社会的にも重たいテーマであるにもかかわらず、終始一貫した作者の温かい眼差しのおかげで、何とも言えない深い余韻のうちに物語を読み終えることができました。

主人公で語り部であるキャシーが介護人をしながら回想する「寄宿学校」ヘールシャムでの思い出は、時系列にではなく、縦横無尽に時間を往来します。しかし、それによって物語の筋は大きく崩れるわけではなく、むしろ読者であるわれわれの物語への深度が強まるのは、作者の卓越した文章力のためであるでしょう。
当初は普通に幼少年期の思い出を辿っているのかと思いきや、合い間合い間に次第に登場する違和感のある単語たち。
日常の物語に紛れその違和感を何となくスルーしてはみるものの、用法が明らかにおかしい言葉が増すにつれて、だんだんと尋常ならざる世界が見えてきます。
普通でない世界で展開される主人公を取り巻く学校生活の描写は、それなりに面白く、ぐいぐいと引き込まれていきます。
そんな中、主人公のキャシーと友人のルース、そしてみんなからバカにされながらも感性が豊かな男の子トミーの三者の関係が提示され、物語の輪郭が徐々に見えてきます。
最初から全てを説明せず、ゆっくりと浸み込ませるように輪郭を明らかにしていく手法はさすがに上手いと思いました。

その後、輪郭が明らかになった後も以前として引っかかるもどかしさを抱えながら、舞台はコテージに移り、そしてさらにノーフォークへ。
主人公のキャシーとトミーが連れだって、『私を離さないで』の曲を見つけ出す場面などは、映画のワンシーンのようでとても楽しかったです。ヘールシャム時代、まだ幼かったキャシーが『私を離さないで』の曲とともに踊っていたシーンも印象的でした。
舞台がコテージに移ってからは、ルースとトミーのカップルと主人公のキャシーの関わり方、これに先輩カップルが加わって関係が一層絡まっていきますが、セックスの話が増えだして、これは終盤に向けての「生」への前振りかなとも思ったのですが、これには見事に作者に裏をかかれてしまいました。

コテージを後にしたキャシーが介護人になってしばらくしてからのルースやトミーとの再会は、むしろ辛さが先に立ちますが、相変わらず柔らかい視点での描写が程良いオブラートになっていて、彼女らの最後の勝負に向けての勢いも増していくので、物語への興味が失われることはありません。
しかし、最後に明らかになったことは、結局、エミリー先生とマダムがしてきたことは、例えていうと、養殖の高級魚にキャビアとかトリュフを与えて世話をしているようなもの?あるいは豚や牛や鶏にフォアグラを与えて世話しているようなもの?さらにはそのアヒルを広い庭の中で自由で快適に暮らさせているようなもの?とも思え、まさに放逐されたルーシー先生が読者の葛藤を代弁していたんですね。
改善を努力してきたというエミリー先生とマダムって・・・。何とも言えない感覚になりました。
そしてここに至り最後は「運命」に諾々と従うキャシーとトミーの2人。
諦観とやるせなさと大切な「時間」とお互いを思いやる気持ちが複雑に入り混じり、深い余韻のままに物語が終わります。

この作品では絵とかカセットテープとかの小道具から、「寄宿学校」やコテージ、船などといった大物まで、印象的な造形物が巧みにシーンの中に「柔らかさ」として使われていて、さらに生徒同士、先生や仲間との会話に繊細さと迫真さがこめられながらも全体として抑制が効いていて、物語の構成上の「優しさ」が滲み出ていた作品でした。
インパクトとしては半減したかもしれませんが、心に刻み込まれた分、事あるごとに印象として再現してくるのかもしれません。

さあ、果たして日本人4人目は・・・?

同じ著者の作品