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作品情報

あらすじ

ニューイングランドの片田舎で死者が相次いで甦った! この怪現象の中、霊園経営者一族の上に殺人者の魔手が伸びる。死んだ筈の人間が生き還ってくる状況下で展開される殺人劇の必然性とは何なのか?自らも死者となったことを隠しつつ事件を追うパンク探偵グリンは、果たして肉体が崩壊するまでに真相を手に入れることができるのか?著者会心の長編第一作!

作品詳細情報

タイトル:
生ける屍の死
ジャンル:
小説ミステリー・サスペンスミステリー・サスペンス(国内)
著者:
山口雅也
出版社:
東京創元社
掲載誌:
ファイルサイズ:
2.3MB
配信方式:
ストリーミング、ダウンロード

作品レビュー

[ 2016-5-20 ]

5/15 読了。
死者が次々と甦り<生ける屍 リヴィング・デッド>と化す怪現象が各地で巻き起こる二十世紀末のアメリカ。その渦中、ニューイングランドの片田舎で霊園を経営するバーリイコーン家では、重病を患った家長のスマイリーが親類一同を集めて何度も臨終宣言を繰り返し、相続人たちを翻弄していた。スマイリーの孫であるパンク少年のフランシス、通称グリンは、同じように一家のはみだし者となったパンク少女チェシャと一緒に大人たちの思惑をすり抜け、暇を持て余していた。しかしある日、スマイリーが開いたお茶会の直後、突然グリンは死んでしまう。臨死体験ののち目覚めたグリンは、自分の心臓が止まっているのを発見して驚愕する。グリンは<生ける屍>になったのだった。ハース博士の協力で自分の死因が砒素であることを突き止めたグリンは、博士以外には死者であることを隠したまま犯人探しを始める。だがその後も殺人事件は相次ぎ、被害者が死んだと思えば甦り、容疑者も死んだかと思えば甦る。この世の法則を超えた<死者が甦る世界>で起こった殺人事件の真相とは?

面白かったーーーーー!!!!!キッド・ピストルズを一気読みしてすっかり山口雅也ブーム。ミステリープロパーじゃないので新本格の歴史とかわかんないけど確かにこれは別格の面白さ。<世界の常識がひっくり返った世界でミステリーは成立するか>という実験的な試みが面白いのはもちろん、アメリカの霊園を舞台にした<死の百科事典>としても堂々たる風格を備えている(実際ちょっとしたポケット事典並みの分厚さ)。
私の趣味はこの後者の<死の百科事典>の方に寄っているので、キリスト教のもとで育まれた土葬文化が火葬を忌避する論理や、そのせいで生まれたエンバーミング(死体防腐処理)という技術のちょっと滑稽にさえ思える高度な発展、それゆえ高度な技術職と認められている葬儀屋の社会的な地位の高さなど、アメリカの葬送文化に関するウンチクをまず楽しんだ。ハース博士とグリンの知に淫した会話は作中でもチェシャによって「死神博士[ドクター・タナトス]の楽しい死学[タナトロジー]講義」と揶揄されるが、古今東西の文学やロック・ミュージックの歌詞から引用してきた各章のエピグラフをはじめとして、本書自体が<楽しい死学講義>として機能するよう書かれているのは間違いない。
殺害動機が狂気の論理というか論理的狂気によって鮮やかに解き明かされる点では、本書の直前に読んだ『キッド・ピストルズの妄想』と非常に近いテーマ性を感じた。生前から自分の死を"演出"する老人や、子孫(遺伝子)に財産を残すことへの異常な執着、"神"の存在証明のために殺しが行われるのも『〜妄想』と共通するテーマだろう。また、山口雅也作品に通底するものとして、全体を覆うナンセンスと物語空間の箱庭性があり、本書もトゥームズヴィルというひとつの村で始まり、トゥームズヴィルの内だけで終わる<小さな狂気の物語>ではある。
キャラクターの魅力についても触れておかなければならない。なんと言ってもグリンとチェシャ!キッド・ピストルズとピンク・ベラドンナにそっくりな(というよりこの二人がグリンとチェシャの"生まれ変わり"なのかも)パンクカップルで、衒学趣味のグリンに対しひたすら行動派で失敗ばかりしているチェシャがかわいい。<生ける屍>になってから体温がなくなり、冷たい身体のせいで実は死んでいるとバレないように他人との接触を避けていたグリンが、交通事故のあと気を失っているチェシャの無事を確かめて抱きしめる切なさ。その後チェシャと一緒にベッドインするが勿論なにもできず、「死に取り憑かれている」と弁明するしかないグリンに、同情したチェシャが無限退行のパラドックスを語る健気さ。そしてラストシーンのグリンの言葉。本当に切なくてキュンとするカップル。その他にもグリンの協力者で時にとんでもないミスリードをやらかすハース博士や、自己顕示欲が強くて困ったおじいちゃんのスマイリー、エンバーミングに並々ならぬ誇りをかけているジェイムズ、チェシャの母で浮気者のイザベラに、甦る死者のせいで精神を蝕まれていく気の毒な刑事のトレイシーなどなど、個性豊かな生者と死者が入り混じり、ダンス・マカブルを踊るように大団円を迎える。
たくさんの登場人物が舞台に現れては消える、カーニヴァレスクな狂乱の空気を漂わせる本書に真っ直ぐ通るたったひとつのテーマは、<生けるものは皆いずれ死ぬ>ということだろう。そんな厭世的にもなり得るテーマを、<皆いずれ死ぬのだから生きていること自体がナンセンス>へとひっくり返し、遊びの感覚で捉え直したうえでミステリーというエンターテイメントとして提示しているのだ。人は皆死ぬために生まれ、生きている間は自分のためのささやかな物語を生きる。作中ではシェイクスピアへの言及もある。そして、グリンの最後の独白によってなんにせよミステリーの探偵役とは<物語をコントロール出来る役>であることが語られる。勿論、死者になってから物語をコントロールすることへの皮肉もたっぷり込めて。

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