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ハプスブルク帝国

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作品情報

あらすじ

弱小城主から元祖「日の沈まぬ帝国」の皇帝へ。広大な版図と多種多様な民族を支配下に置き、千年の命脈を保った世界史上ユニークな「帝国」。奇人皇帝ルードルフ二世から悲劇の皇妃エリーザベトまで。音楽の都、世紀末芸術の都としてのウィーンから、サラエヴォの銃声に始まり、敗戦と帝国瓦解で終わった第一次世界大戦まで。様々な人物とエピソードに彩られた歴史を一冊の新書ですべて描く。

作品詳細情報

タイトル:
ハプスブルク帝国
ジャンル:
心理・思想・歴史歴史・地理世界史
著者:
岩崎周一
出版社:
講談社
掲載誌:
ファイルサイズ:
49.7MB
配信方式:
ストリーミング、ダウンロード

作品レビュー

[ 2017-11-24 ]

 ハプスブルク家に関する本は既に数多あり、そこに新たに切り込むには何らかの新奇性が必要なのだろう。本書にも「新たなハプスブルク家」像を描き出す様々な試みが散見される。例えば、王国の支配には中世ヨーロッパ封建制を支えた「諸身分」の支持が不可欠であったことを根拠に、当家が政略結婚で伸長した勢力であるとのステロタイプを否定しようしている。曰く、政略結婚は世の常でありひとりハプスブルク家に限ったことではない、と。

 では、ハプスブルク家がヨーロッパの大勢力になるべくしてなったというその理由は、本書ではどこにあるとされているのだろうか。強いて言えばそれは、カール5世の治世で確立された「複合君主政国家」的性格が他国家よりも顕著であったということなのだろう。本書では、普遍主義に基づく宗教的統合の試みの挫折や、30年戦争やスペイン承継戦争を経て、ハプスブルク帝国が複数の主権国家よりなる寛容な「帝国らしからぬ帝国」となっていく過程が描かれており、後のEU構想の原型が透けて見えるようで興味深い。
 しかし一時は19世紀以降の民主主義国家を先取りしたとも見えるこの進取性も、当家が神に選ばれし王権であるという根強い「選良意識」「神権的君主理念」から生ずるパターナリズムにより、その発現を阻まれることになる。啓蒙主義も自由主義も、当家においてはエリートの体制維持が保証される範囲内で称揚されたに過ぎなかった。19世紀のヨーロッパを席捲したナショナリズムでさえハプスブルク君主国の枠組の中で各国民の自主性の獲得を目的とするものに限定され、君主制の権威主義を護持する範囲での社会の改良が志向された。そのため代議制や立憲制への移行が遅れ、国内マイノリティたるスラヴ系民族の扱いを誤った挙句サライェヴォ事件の遠因を作り、さらに国内調整の遅滞から経済停滞を招き富国強兵でも他国にも後れを取ることとなる。
 
 全編を通じて、民族的多様性から多くの文化的果実を得つつも、その錯雑さに翻弄される君主国の苦悩が描かれているが、これこそが著者が本書で浮かび上がらせたかったハプスブルク君主国の本質なのではないかと思った。終章、ハプスブルク君主国が「帝国」の概念を多様性をも抱合するより上位の概念に昇華させたとの指摘が、悲劇の国家として扱われることの多いこの国にとってはせめてもの救いだろう。