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作品情報
作品レビュー
[ 2018-4-16 ]
若い世代向けに書かれているが、すべての世代におすすめできる心揺さぶるノンフィクション。
著者の1人、マイケルはごく幼いころにアウシュヴィッツに送られ、奇跡的に生き延びた過去を持つ。マイケルがサバイバーとなれたのは、いくつかの偶然の所産だが、その陰には、一族の強い絆と、家族の深い情愛があった。
長年、過去について沈黙を守ってきた彼だが、1枚の写真との出会いをきっかけに、アウシュヴィッツの証言者となることを決意する。
当時4歳と幼かったマイケルのおぼろげな記憶を掘り起こし、裏付けたのは、同じ苦難を乗り越えた同胞のユダヤ人や家族の証言、そして丹念な文献調査だった。
ジャーナリストであるマイケルの娘、デビーは、マイケルの話や他の人々のエピソードを再構成し、読みやすく、心打つ物語にまとめている。
ユダヤ人コミュニティに迫るナチスの手、アウシュヴィッツでの残酷な出来事ももちろん胸に迫る。
だが、それらに加えて、この物語を力強いものにしているのは、帰還後のマイケル一家の姿だ。何もかもを失い、ゼロから、いやマイナスから始めることになった彼らは、手を取り合い、挫けずに生き延びていく。
「これもいつかは過ぎていく(ガム・ゼ・ヤ・ヴォール)」
父の口癖であったこの言葉は、一家を支える灯となる。
全員が命を長らえることはかなわなかった。けれど、亡き人々の思いもまた、次の世代につながれていく。
これは、ユダヤ人としての民族の歴史にとどまらず、すべての人に響く普遍的な物語だ。
理不尽な運命に負けず、毅然として立ち向かった庶民の歴史を生き生きと描く本書は、多くの人の心を捉えることだろう。
* NetGalley(ネットギャリー)https://www.netgalley.jp/という、出版前の本のデジタル版ゲラが読めるサイトでいただいた本です。Amazonの書誌事項が登録されたようなので、こちらにも投稿します。
