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作品情報
作品レビュー
[ 2018-12-17 ]
さすが話題になるだけあって、強烈なインパクトの一冊。漁業というものに対する見方が変わってしまいそうだ。
何も知らず「いただきまーす」と食べていた魚の背後に、これほど黒々とした闇があったとは。しかもそれがほとんど公然としたもので、知らない関係者などいないと断言されていることが最も衝撃的だった。あれがうまいとか好きだとか、安いだの高いだの、好きなことを言いながら、一方で「資源保護」と言われればウンウンそうだよねとうなずく「普通の消費者」は、この実態をどう考えればいいのか。
最初の方の、アワビやナマコについては、へぇ~、そんなカラクリがある(あった)の!と驚きつつも、まだまだ気楽に読んでいたのだ。自分は食べないし、関係ないもんね、と。ウーンと唸ってしまったのが、後の方のカニとウナギ。いや、たまにしか食べないんだけど、それだけにご馳走感が大きいわけで、でも、これまで食べてきたののおそらく半分以上は密漁品だったんだろう。
取り締まる側も漁業者も流通から小売り関係者も研究者も、皆知っていて、でもどうにもできない底知れない闇。法規制を強めても、必ず抜け道が作られる。第一、本当に密漁や密輸を完璧に閉め出したとしたら、一体魚一匹にいくらの値段がつくことになるのか。「食べない」という選択を私たちはできるんだろうか。考え込んでしまう。
ヤクザや香港マフィアがからんだ密漁・密輸の実態の他にも、著者が潜入取材した築地市場の有様や、銚子港の荒々しい来歴など、驚くべき話がいろいろ出てくる。著者はヤクザ取材が長いそうだが、腹を据えて書かれただろうことがひしひしと伝わってくる。ただ私には、著者の文章にはちょっとひっかかる感じがある。ことの性質上、詳細を書けずにぼかしてあるところも多いことは重々わかっていて言うのだが、前後関係がよくわからなかったり、すっきり腑に落ちない箇所が結構あった。元週刊誌記者らしい読みやすい文章でもあり、他にそういう意見を聞かないので、ごく個人的な感覚かもしれないが。
