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父と私の桜尾通り商店街

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作品情報

あらすじ

桜尾通り商店街の外れでパン屋を営む父と、娘の「私」。うまく立ち回ることができず、商店街の人々からつまはじきにされていた二人だが、「私」がコッペパンをサンドイッチにして並べはじめたことで予想外の評判を呼んでしまい・・・・・・。(「父と私の桜尾通り商店街」)全国大会を目指すチアリーディングチームのなかで、誰よりも高く飛んだなるみ先輩。かつてのトップで、いまは見る影もないなるみ先輩にはある秘密があった。(「ひょうたんの精」)平凡な日常は二転三転して驚きの結末へ。『こちらあみ子』『あひる』『星の子』と、作品を発表するたびに読む者の心をざわめかせ続ける著者の、最新作品集!収録作品・白いセーター・ルルちゃん・ひょうたんの精・せとのママの誕生日・モグラハウスの扉(書き下ろし)・父と私の桜尾通り商店街

作品詳細情報

タイトル:
父と私の桜尾通り商店街
ジャンル:
文学・詩集日本文学
著者:
今村夏子
出版社:
KADOKAWA
掲載誌:
ファイルサイズ:
2.5MB
配信方式:
ストリーミング、ダウンロード

作品レビュー

[ 2019-3-12 ]

調和を破るという事態が、現実にはたまに起きます。
それまで会話が弾んでいたのに、突如、友人が怒り出す。
あるいは楽しく食事していたと思ったら、急に恋人が泣き出す。
本書は、そんな日常に生じた、いわば「亀裂」を丁寧にすくい取ります。
思えば空気を読むことに慣れた現代日本人には、これほどの恐怖はありません。
たとえば、「ルルちゃん」。
主人公は契約社員の「わたし」です。
「わたし」は、「ルルちゃん」と呼ばれる人形を持っています。
同僚のベトナム人に、「ルルちゃん」が我が家にやって来たいきさつを語るのが、この短篇の本筋です。
ルルちゃんは、10年前に「わたし」のうちに来ました。
当時、「わたし」は、今とは別の工場で働いていて、休みといえば図書館に通い詰めでした。
その図書館で出会ったのが、1回り年上の、40歳前後と見られる「安田さん」という女性です。
どうやら大変に温厚な人柄のようです。
安田さんは夫と2人暮らしで、生活レベルも割合高い。
ある日、「わたし」は、安田さんの自宅に招かれます。
夫は不在で、安田さんと2人きりです。
それで、カレーライスをごちそうされるのですが、「わたし」一人で食べることになります(もう、ここから少しおかしい)。
会話は虐待問題で盛り上がります。
安田さんは、虐待する人を「許せない」と言って、だんだんヒートアップしていきます。
そして、あの一言。
家の中が、シンと静まり返るのが目に浮かびました。
「白いセーター」もそう。
クリスマスイブの日、義理の姉に用事ができ、姉の4人の子どもたちを預かることになった主人公の「わたし」。
よくあると言えば、よくあることです。
「わたし」と4人の子どもたちは、義理の姉の発案で、教会へ行きます。
厳粛な式の最中に子どもの一人が叫び出し、「わたし」はたまらずその子の口をふさぎ、それでも暴れるので鼻もつまみます。
この行動が後に、「わたし」を窮地に陥れることになります。
義理の姉の前で、子どもたちから、この時とった行動を告発されるのです。
ここでも、読む者に恐怖を催させる一言が、子どもの一人から発せられます。
これも、ありそう。
しかも、作中、一度生じた「ズレ」は、容易には元に戻りません。
元に戻らないどころか、どんどんズレていきます。
たとえば、「せとのママの誕生日」です。
かつてスナックで働いていたホステス3人が、年老いたママの誕生日を祝おうと、その店に集まります(その設定からして少々変わっているのですが)。
だが、ママはぐっすりと眠りこけていて起きない。
そこでホステス3人は思い出話に興じます。
「出べそ」のホステスは、それを商売道具にするようママに命じられ、実際にそれに従ったと告白します。
出べそを手術で切除すると、ママは怒ったそう。
もう1人のホステスは、店の得意客が悦ぶよう、カラオケで絶叫の合いの手を入れるようママに強要されたと打ち明けます。
だが、なかなか、良い「絶叫」が出来ない。
ママがホステスの頬をつねっても、鼻をつねっても、腹をつねっても、ママが納得する絶叫が出て来ないのです。
ところが、乳首をつねった時でした。
「ギャッ」という、なかなかに良い声が出たのです。
2人はハッとして顔を見合わせました。
ただ、じゃあ長くつねれば叫び声も長くなるかというと、そうではありません。
ホステスは、クッと声を発してから、歯を食いしばってしまうのです。
ママは首をかしげてしばし考えてから、こたつの部屋に行き、ペンチを手にして戻ってきました(このあたりの筆の運び方のうまさったら!)。
そして、ペンチでいじくり回された乳首は両方ともポロリと取れてしまうのです。
3人の思い出話は止まりません。
既に店を辞めたホステスたちが、次から次へと出てきます。
みんな、ママとは、身体に関わる思い出を持っています。
ママによって、自分の身体から離れることになった、かつては自分の身体の一部だった「モノ」たちが語られます。
その身体の一部だった「モノ」たちを、3人は熟睡するママの身体に貼り付けていきます。
もう怒濤のような展開に、クラクラとめまいがしてきます。
読後、ふと我に返ります。
なぜ、こんなことになったのか…。
そう、あの亀裂に足をすくわれてしまったのです。
おお、こわ。
表題作も佳品。
今村夏子はいま、私の一番のフェイバリットです。

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