ブックパス

ページの移動

キャンセル

OK

キーワード

セーフサーチ

成人向けコンテンツの制限

並べ替え

価格

円 〜

条件追加

カテゴリー

ビジネス

趣味・実用

小説

雑誌

コミック

女性コミック

男性コミック

ラノベ

ブックコイン・WALLETポイント

0(今月中に0コイン失効 0

作品情報

あらすじ

藤子・F・不二雄を「先生」と呼び、その作品を愛する父が失踪して5年。高校生の理帆子は、夏の図書館で「写真を撮らせてほしい」と言う1人の青年に出会う。戸惑いつつも、他とは違う内面を見せていく理帆子。そして同じ頃に始まった不思議な警告。皆が愛する素敵な“道具"が私たちを照らすとき――。(講談社文庫)

作品詳細情報

タイトル:
凍りのくじら
ジャンル:
小説ミステリー・サスペンスミステリー・サスペンス(国内)
著者:
辻村深月
出版社:
講談社
掲載誌:
ファイルサイズ:
5.6MB
配信方式:
ストリーミング、ダウンロード

作品レビュー

[ 2013-5-18 ]

なぜ、自分はこの世に生まれてきたのだろうか。

高校生の芦沢理帆子は尊敬する漫画家、藤子・F・不二雄先生の創作姿勢

SF。Sukoshi Fushigi(少し・不思議)

に、なぞらえて周囲の人間たちを「スコシ・ナントカ」で分類している。
どこのグループにも所属でき、どんな場所や友達にも対応可。
しかし心から他人とふれあうことはなく、自分自身を(少し・不在)と捉えている理帆子。
そんな理帆子に昔の自分を重ねながら読んだ僕は(少し・不健全)だろう。

生まれて初めて買った漫画は『ドラえもん』の5巻か8巻だったと思う。
収録作品は覚えていないが、巻末に「ひみつ道具図鑑」が載っていて、それが目当てだった。
小学校一年生のとき、母親に児童書を買うという名目で初めて小遣いをねだり本屋へ向かったが、目的の物が品切れで出来心で漫画を買ってしまった。
後ろめたさもあり机の下に隠していたが、それが母に見つかり尋常じゃないくらい怒られた。

欲しいひみつ道具は特になかった。
僕はタイムマシンそのものよりも、そこにつながる机の引き出しに魅力を感じていた。
「コーヤコーヤ星」に通じる畳の裏側や、単純に、ドラえもんが眠る押し入れの二段目に入りたかった。
「どこでもドア」ではダメだった。
現実に連なるどこかではない、ここではない夢の世界に行きたかった。

(少し・不機嫌)な母と(少し・浮遊)な父は、おそらくその頃から(少し・不仲)で、僕らは(少し・フェイク)な家族だった。

親の不仲や家族の断絶で、子供は自分の存在意義の危機に直面する。
具体的に言語化できなくても、あるいはそうであると意識できなくても、深層心理で確実に感じるはずだ。

なぜ、自分はこの世に生まれてきたのだろうか。

(少し・不健全)な僕は、理帆子の「元カレ」若尾大紀にも少し気持ちが入ってしまった。
理帆子に藤子先生がいたように、若尾にも『ドラえもん』がいてくれたら良かったのに。
楽しい空想の世界に逃げ込めた僕は幸せだった。
もし自分に『ドラえもん』がいなかったらと考えると、ぞっとする。

美也のような存在に憧れる。

一年に一度あるかないかくらいの飲み会で出会った、ひとつ年上の兄貴分がいる。
何事にもまっすぐで、大いに笑い、大いに怒り、大いに泣く。
いうなれば「きれいなジャイアン」だ。
ある時、僕は酔いにまかせてこう言った。
「◯◯さんと僕は全然タイプが違う。うらやましいですよ。◯◯さんと友達になれたらなぁ」
そうしたら彼は何のてらいもなくこう言った。
「あれ、俺たち友達だろ?」

友達の定義についてあれこれ考え「自分には本当の友達はいない」と思っていた人間には、かなりの衝撃だった。
こういう人にはやっぱりかなわない。
僕が結婚する際には、友人知人をかき集め店を貸し切り、盛大なパーティーまで開いてもらった。
みんなの前で一発芸をムチャぶりされ、もぞもぞやっていたら「なにやってんだ」と回し蹴りを喰らった。
あとで「ちょっと盛り上げようと思っただけだから、ゴメンな」と謝られた。
ジャイアンだった。

『ドラえもん』で一番好きなエピソードは、昔から変わらず『のび太の結婚前夜』だ。
この話を読んだり観たりするだけで目頭が熱くなる。
未来の高層ビル群の狭間に残る「剛田雑貨店」の二階で酒を酌み交わす悪友たちの友情がいい。
ちゃんと出来杉君がいるのもいい。
そして、なんといっても普段は影の薄いしずかちゃんのパパが、娘に語りかける言葉にぐっとくるのだ。

『凍りのくじら』は、父から娘へと「光」が受け継がれる物語でもあった。
芦沢理帆子が浴びた光と同じものを、僕もいつの間にかいろんな人から照射され、いまここに存在している。

この本は、もうすぐ三歳になる娘が昼寝をしている横で読み終えた。
あどけなく、少し、いや「Sugoku・Fairy」な顔で寝息をたてているのを眺めていると、幼い頃から抱いていたあの疑問の答えを垣間見た気がした。

同じ著者の作品