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九年前の祈り

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作品情報

あらすじ

三十五になるさなえは、幼い息子の希敏をつれてこの海辺の小さな集落に戻ってきた。希敏の父、カナダ人のフレデリックは希敏が一歳になる頃、美しい顔立ちだけを息子に残し、母子の前から姿を消してしまったのだ。何かのスイッチが入ると大騒ぎする息子を持て余しながら、さなえが懐かしく思い出したのは、九年前の「みっちゃん姉」の言葉だった──。痛みと優しさに満ちた〈母と子〉の物語。 表題作他四作を収録。芥川賞受賞作。

作品詳細情報

タイトル:
九年前の祈り
ジャンル:
小説国内小説一般
著者:
小野正嗣
出版社:
講談社
掲載誌:
ファイルサイズ:
1.6MB
配信方式:
ストリーミング、ダウンロード

作品レビュー

[ 2018-1-21 ]

第152回芥川賞受賞作。

芥川賞というと、合う合わないがスパーンと訣れることが多いのだけど、この作品の重みは好き。
いわゆるムラ社会色の強い熊本の小さな集落に、カナダ人とのハーフである息子、希敏(ケビン)を連れて出戻ってきたさなえ。
彼女は同じ故郷に住む「みっちゃん姉」と呼ぶ、かつて共にカナダを旅した初老の女性に逢いに行こうと思い立つ。

ともすれば、ムラ社会のしがらみを強く意識させる母と、反する生き方を選んでしまうさなえのドロドロになりそうなのに、この「みっちゃん姉」の存在が作品世界の色そのものを変える。
まださなえが若い時分、集落の女性達が、ジャックという先達を伴ってカナダ旅行に行く。
旅の中でさなえは、年の離れたみっちゃん姉の中にある、明るさに潜んだ哀しみを見つける。

その時は声のかけようもない「感じ」を、巡り巡って自分の影の中に見出したとしたら。
一概に共感とは言えない複雑な重なりの中で、だからこそ、さなえは彼女を追い求めているように見えた。

他の話とも繋がりのある短編集。
どの話でも、一番逢いたい人には逢えないままに筋が進んでゆく。
逢おうと思い立ったその感情は、逢えるその瞬間までに、思い出を伴って濃いものに変化してゆく。

そうか。逢うことだけが大切なのではないのか。
そこに至る過程の中で、その人との距離や時間を相対化しながら、改めて自分を見つめる時間が生まれる。
その過程を、とても快く感じた。

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